兄弟リスク

名前を忘れてしまいましたが、ある女優が結婚してからしばらくして、「平凡ってすごいことだ」といった意味の発言をなさったことがあります。

 

それは、女優=華やかで非凡、という生活と平凡=月並みという対比で話したのではなく、一見どこでもあるような「平凡」な生活をしていても、それを維持するには大変な努力が必要だということを実感しての発言でした。

 

今日取り上げる「兄弟リスク」という言葉は、聞きなれない方もいらっしゃることと思いますが、自立して生活するようになったり結婚したりするようになれば避けられないリスクとして最近話題になっています。

 

兄弟に対しては相互扶養義務があるわけですが、社会状況の変化もあり、今後、兄弟リスクの問題はますます深刻になってくると思えます。

 

【兄弟リスクとは?】

 

兄弟リスクとは何かということですが、簡単に説明すると、兄弟になんらかの理由で自活できない人とか介護が必要な人とかがいた場合、相互扶養義務に基づいて面倒をみるわけですが、その負担が大きな犠牲を強いる可能性がこれまでに比べて格段に大きくなっているためにリスクも高まっていて、これを兄弟リスクと呼んでいます。

 

もちろん仲が良い兄弟のほうがずっと多いとは思いますが、遺産相続とか結婚・出産など環境の変化が直接の原因で不仲になるケースは非常に多いです。

 

考えてみると、兄弟の関係というものは、親との関係とは異なり、親に愛されるかどうかということが死活問題のように感じられる幼少期から敵対関係になる可能性は高いものです。

 

それでも、親が生きている間は、親を中心として人間関係の組み立てが出来ている場合が多いので、表面化しない場合がほとんどですが、いざ親がなくなってみると遺産相続を契機として、これまで互いに考えもしなかった対立関係に入る場合が多いと思います。

 

相続については、生前の親を含めたコミュニケーションが重要だと思いますので、ここでは触れません。

 

問題は生活能力のない兄弟がいた場合の対応になるかと思います。

 

 

【なぜ兄弟リスクが問題になってくるのか】

 

もしタイムマシンで戦後の敗戦からの復興で経済がい活気づいてきた時代に戻ったとすれば、兄弟の面倒をみることなど当然のことで、それに対してNOというのは人間ではないぐらいの扱いをされるかもしれません。

 

ですが、その時代と現代ではあきらかに状況が異なります。

 

また、昔の人はいい人が多くて、今の人は悪い人が多いなどと誰も思わないでしょう。

 

この兄弟リスクが大きくなっているのは、次のような理由からです。

 

1.兄弟の数が減っている

 

かつて多かった5人兄弟のうち1人だけ問題があるような場合でしたら、あとの4人で助け合ってなんとかしたと思います。

 

しかし2人とかの兄弟であれば、義務感だけが重くのしかかります。

 

2.核家族化が進んでいる

 

親子3代で仲良く暮らすということは、だんだんと稀になってきています。そして細かく分裂した家族の経済は、それぞれが自立して支えざるを得ない状況で、失敗なく生きていくことが必要になっています。

 

3.家庭は貧乏のままです

 

グローバル化の影響で、企業は多額の自己資産の留保がありますが、賃金上昇以上に物価が上昇し、増税もあり、個人消費には全く余裕がありません。したがって個人ベースでも無駄な出費は極力抑えざるを得ません。


 

【どんなケースが多いか】

 

一つ典型的と思われる例としてK子さんの例をあげてみます。

 

K子さんの夫の弟はフリーターで収入がほとんどなく、母親から生活の支援を受けています。(父親はもっと前に亡くなっているとします)

 

弟は少しうつ病気味で、大学を中退してから一度だけ就職しましたが、仕事が合わずやめてしまい、それからは時々アルバイトをする程度で、母親からの仕送りで生活している状態です。

 

兄弟間の交流はあまりなく、K子さんも結婚式の時ぐらいしか義弟に会ったことはありません。

 

ところが最近、義母が体調が悪く入院しましたが、他に面倒をみる人がいないのと、隣町に住んでいるという理由からかK子さんが義母の介護で病院に通うようになりました。

 

K子さんは義母の面倒をみることに抵抗はありませんが、これを機会に義弟のことも考えてしまいました。

 

– 義弟は毎月仕送りを貰い、また体が悪いわけでもないのに、なぜ義母の面倒を一切みようとしないのか?

– 見返りというのは言葉が悪いけれども、義母が亡くなった場合、自分には相続権はないが夫にはより多くの相続を受ける権利があるのではないだろうか。

-また義母が亡くなったら義弟の生活はどうするのだろうか。義弟へ仕送りなどする余裕はないし義務もないのではないか。

-さらに考えると、万一、私(K子)と夫になにかあった場合、息子が義弟に対して何かをする義務があるのだろうか。

 

などなど。

 

ちなみに、兄弟の相互扶養義務については、法的に強い規制はなく、仮にK子さんと夫に経済的余裕があったとしても生活保護の申請は可能なようです。

 

しかし、道義的な罪悪感を完全に逃れるのは難しい場合もあるだろうし、政治家とか芸能人でも母親とかに生活保護を受けさせていて叩かれたケースもあり、日本の社会では、兄弟は相互に扶養するべきだという考えは根強くあると思います。

 

実態が相互扶助をできずらい環境になっているのに、感情論だけで言われてもとは思いますが、世間の噂というのはそうしたものなのでしょう。

 

似たようなケースで、いい歳をした息子が大麻保持しているのが発覚して、親が泣いて謝るケースもよくあるような話ですが、片っ方では大人だから親が謝る必要はないと思いつつも、親が平然としていては許せない感情がどこかにあり、それを満足させるために、ああしたことになっているのだと思います。

 

兄弟の相互扶養義務についても、同じようなことが起こっているのだと思います。

 

 

 

【まとめ】

 

この問題をまとめるのは難しいのですが、一つはっきり言えることは、普段から小さな問題を放置せずに、穏やかに話をしていくことが大事だろうと思います。

 

K子さんの問題については、義母がなんといおうと、義弟にも介護をして欲しいと話してみたり、もし介護が難しいのであれば、今後起こり得ることを想定しての話を可能な限りつめておくことが必要だろうと思います。

 

多くの場合、親の甘やかしが原因であることも多いし、それについて親は無自覚なので、そこはあきらめないで粘り強く親にも理解をしてもらうように、穏やかに話をしておくことがまずは第一になすべきことではないでしょうか。

 

 

20180107 by okkochaan