仕事を探していたり、あるいは別の仕事に移りたい時、派遣で働いている方はアルバイトを、アルバイトの方は派遣を考えるかもしれません。
しかし、この二つには雇用主が違うということのほかに、さまざまなメリットやデメリット、あるいは、嘘とはいわないまでも、現状をしっかり認識したほうが良いことがあります。
派遣とアルバイトの身分上の違い
まず、退屈かもしれませんが、人材派遣とアルバイトの身分上の違いについて説明します。
実は、人材派遣とアルバイトの労働法上の違いは雇用主が違うことだけです。
もちろん、細かな点での違いはいろいろあります。
例えば、通常は雇用主から出る業務指示が、派遣の場合は派遣先の企業からでるし、給料とか社会保険の加入とかも派遣会社で入ることになります。
わかりやすく表にまとめましたので、参考にしてください。
雇用主 | 時間給 | 必要なスキル | 契約期間 | 社員になる可能性 | 社会保険 | 交通費 | |
派遣社員 | 派遣会社 | 高め | 事務だとパソコン力などが必要 | 3年を上限とするが、更新単位は3か月更新などが多く更新されないこともある。 | あり | 2か月を超えた契約期間なら加入 | 原則なし |
アルバイト | 就労先の企業 | 安め | 高度なスキルは不要の場合が多い | 特に定めはない | あり(ただしある程度の期間が必要か) | 条件を満たせば初めから加入 | ある場合も多い |
全体の傾向としては、派遣社員の場合は、派遣会社の規則が規準になっているのに対し、アルバイトの場合は、社員の待遇が基本になっての発想なので、良い面も悪い面もあるということです。
上記の基本事項を認識したうえで特に問題がなければ、どちらでもいいと思います。
つまり、派遣会社の方が良くてアルバイトが悪いとか、その逆についても、個別の仕事とか会社とかで比較するしかないのです。
派遣とアルバイトの仕事上の違い
派遣とアルバイトの契約上の違いは、雇用主が仕事を指示する会社が雇用主かどうかということですが、このことは、仕事上の違いにも反映されます。
派遣もアルバイトも仕事内容をさだめるのはもちろんですが、派遣の本来の目的は、特定のスキルを時間単位で売ることにあります。
これは、人材派遣法の成立過程とも関係しています。
もともと日本の法律は、労働者が雇用主と主従関係にあったり、中間業者による搾取が行われることを嫌っていました。
しかし、企業の外注化として請負だけでは不十分で、直接指揮できる派遣が脱法的ではありながら、産業界に普及していることや海外での発達を受けて、日本では、職種をスキルが必要なものだけに限定して認めたのです。
派遣法では、契約外の仕事はする必要はありません。たとえ指示されても断わる権利があるのです。
例えばエクセルでのマクロ処理が得意で、そのスキルを生かした仕事がしたいと思えば、その契約で派遣で働けばよいのです。
あのドクターXのように、必要なときだけ現れて、すばらしいスキルで手術を成功させ、終わったらマスクをすてて立ち去ればいいのです。
(ちなみに、ドクターXのように医療行為を伴う派遣は禁止されています。)
ただ、派遣法のこうした考え方は日本ではなじみずらいものでした。
例えエクセルの仕事だけで契約していても、それに付随する事務仕事は発生するわけで、そこまで契約にないという理由でやってもらえないのであれば、派遣という制度を利用しずらいからです。
従って主業務であるエクセルの仕事を遂行する上で、付随的に発生する事務仕事までは、派遣法も認めました。
しかし、問題はここから先にありました。
派遣法の契約が企業や仕事現場には理解されず、「社員も派遣もわけへだてなく」という意味不明な言葉で、派遣契約の内容などにおかまいなく、なんでも頼んでしまうからです。
これは、物に例えてみれば、コンビニでお弁当を買って、その値段でお茶もサービスしてくれと言っているのと同じです。
しかし、派遣スタッフも、すごいスキルを持っている人は全体の割合からいえば、わずかであり、企業ニーズの大半は、「一般事務」であるため、こうしたうやむやな事態を受け入れてしまいました。
また、企業は仕事量の増減に伴う雇用の調整役として派遣という制度を利用するので、主要業務は社員が行い、誰がやっても同じ結果が期待できる事務仕事を派遣社員に任せるようになってきたのです。
派遣会社にとっても、高いスキルや経験を要する仕事よりも、誰でもできる仕事を大量に受注したほうが、利益がでます。
こうして、当初の派遣法の美しい理想は、なし崩しになり、何度かの派遣法改正を経て、現在は職種にかかわりなく派遣期間の上限を3年とすることで落ち着いています。
つまり、スキルが不要とか未経験でも可能とかの仕事になる分だけ、派遣とアルバイトの違いはなくなっていると言えます。
「アルバイト派遣」とか、わけのわからない言葉さえありますが、これも給与の支払い者が派遣会社であるので、あきらかに派遣ということになります。
派遣社員とアルバイト・パートの数の違い
ここで、ちょっと見かたを変えた話をします。
下の表は政府による統計ですが、赤で囲ったところだけ注目してください。
引用元: e-Stat 統計で見る日本
ざっくりいって、パート・アルバイト(この二つに本質的な違いはありません)が1398万人に対し、派遣で働く方の数は133万人と約10分の1であることがわかります。
派遣社員として働いたことがある方や東京など都市部に住んでいる方には、派遣が当たり前に受け入れられていますが、日本全体でみると、派遣で働くことは、まだまだ少ないことがわかります。
さらに、パート・アルバイトの1398万人に加えて、約600万人の契約社員や嘱託社員が加わります。
つまり、非正規社員の増加と言われていますが、その内訳のなかで、派遣社員の占める割合はこんなものなのです。
もちろん、派遣業界ではこの事実に気づいていました。
そのため、真のターゲットは競合他社を倒すことではなくて、この眠っている大きな市場を開拓することであったのです。
実は、日本は海外からみるとパート大国と言われています。
高度成長期から日本の企業はパート・アルバイトに頼っていたのです。
一つ例をあげます。
それは日本の銀行のことですが、銀行というのは紙ベースの事務も多く、機械化が難しいために多くの人の作業に頼らざる得ない面があります。
そのため、非常に多くのパート・アルバイトを雇っていますが、その人たちがいないと銀行の事務は動かないのが実情です。
当初は、適齢期を迎えた女性が社内結婚され、退職し、子育てが落ち着いてから元の銀行でパート・アルバイトをするという形態でした。
社員であれば考えられないような安い時給で働いていたのです。
もしかすると、自分が教えた後輩が上司となり、仕事の指示をされたりしていたでしょう。
それでも、こうしたことが成り立っていたのは、銀行という昔でいえば藩のために働くのと同じ、滅私奉公の文化があったからです。
一度退職しているので、労働契約は対等に結ばれるべきものではありますが、実際は対等ではありません。
主君とか組織に忠誠を尽くすのを相互に疑うことがない環境があったから成立していたのです。
雇用主にとっては、企業文化を理解しているというのは、重要でした。
ブランクがあれば、仕事のやり方やシステムなど全く変わっていることも多いですが、それでも、カルチャーを理解していれば間違ったことをする可能性は限りなく低い、つまり信頼できる人なのです。
日本の大手企業は、銀行に限らず、こうした人事システムをもっていて、ある意味、「効率化」を実現していたのです。
正社員とアルバイトの違いは、現在よりもずっと差がありました。
しかし、安定を求め、身を守るためにも、外の世界にでていく危険を考えると安全と思えたのです。
その後、そうした退職者の復帰も十分でなくなってきて、派遣制度が浸透してくると、パート・アルバイトを管理していた部署を子会社の派遣会社にしていきましたが、基本の発想は全く変わっていません。
つまり、そうした大手系の派遣会社の実態は、アルバイトと考えた方が良いでしょう。
派遣かアルバイトか 【ケース別のアドバイス】
これまで述べてきたことは、実際に働く人にとってはどうでもいいことに思われるかもしれません。
そこで、いくつかのケースや事例をもとに、派遣かアルバイトかを考えてみたいと思います。
そもそも、人はなぜ仕事をするのでしょうか。
あなたにとって、仕事をする目的は何なのでしょうか。
それによって、派遣かアルバイトかの選択も微妙に変わってくるかもしれません。
生活のためだけに仕事をする場合
残念なことに、もしかすると生活のためだけに仕事をするのが、ほとんどであるかもしれません。
この場合ですが、個々の状況によっての選択を余儀なくされます。
つまり、状況が選択肢をせばめてしまいます。
仕事をしていないだけで、家賃や光熱費、食費など必要不可欠な出費があり、マイナスになるので、どんな仕事でも受けざるを得ない状況だからです。
できれば、この状況は避けたいと思っても、背に腹は代えられません。
仕事をしなければならないのに、仕事が決まらないという焦りもでてきます。
それに、派遣にしろアルバイトにしろ、所詮は一時的な仕事です。
しかし、この場合であれば、僕はあえてアドバイスします。
なるべく残業とか通勤とかで負担が少ない仕事を選んでください。
雇用形態は派遣でもアルバイトでもかまいません。
契約が終了しても、しっかり次を紹介してくれるなら派遣会社でもいいと思うし、出来ればあまり仕事を変わりたくないとおもうのであれば、アルバイトの方がいいかもしれません。
ただ、この際、毎月の出費を徹底的に見直して、削れるもの不要なものを出来るだけ削ってみてください。
例えば、携帯電話をもっていれば、固定電話はいらないかもしれません。
家にあるもので、売れるものもあるかもしれません。
携帯電話はもっと安いものに変えられるかもしれないし、食生活もより安くて栄養もとれる方法があるかもしれません。
通勤を考えると、派遣よりアルバイトの方が身近にある場合も多いかもしれないし、派遣だと交通費が出ませんが、アルバイトだとでる場合も多いので、見える時間給以外のメリットがアルバイトの方にあるかもしれません。
こうして、働く時間を必要最小限に限定して、少し落ち着いたところで、自分が何をやりたいのか、そのために自分にどのような教育が必要なのかを考え自分に投資するために時間を使ってください。
なぜなら、アルバイトも派遣も不安定なものには違いなく、少しでもリスクを減らして備えていかなければならないからです。
もし、次の自分の状態が思い描けないほど生活に疲れ、アルバイトや派遣で生活するしかないという思いしかなければ、その仕事でどのくらいの期間、働ける見込みがあるかだけでもチェックしておいてください。
派遣やアルバイトは一時的と決めている場合
僕が派遣会社で営業をしていた時のことですが、コンビニのバイトの仕事の方をスタッフの方が選んでしまい、僕が勧めている仕事を受けていただけないことがありました。
その方は、事務経験も十分あり、パソコンのスキルも高く、事情はよくわかりませんが、もっと条件の良い仕事に就けるので、自分を安売りしているように思えたのです。
そこで、彼女に理由を聞いてみたのですが、彼女のポリシーははっきりしていて、「私は自分のスキルや経験を正社員以外では使わない」との話でした。
僕は妙に感心してしまったのですが、確かに、自動車で例えてみると、3000ccの車は時速100キロ以上で走らなければならないというわけではありません。
いつでも、高速で走れる余裕をもちつつ、60キロで走ってもいいわけです。
そして、100キロでちょっと危なっかしくは知っている軽乗用車を王者の風格で眺めていればいいわけです。
しかし、それでは彼女はなんで派遣会社に登録したのかという疑問が残ります。
実はそれについての答えも明確でした。
「派遣会社は私のスキル・経験に注目して、時間給の高い仕事ばかりを紹介してくるんです。私は登録の時にはっきり、雑用のような頭を使わない仕事を希望すると話したし紙にも書いたのに、その希望をかなえてくれないのです。」
僕は、このような明確な希望をもち、方針も決めている方を理解しました。
「あとは、あなたが決めることよ」
僕の大好きなアニメ、「地獄少女」の決めぜりふですが、派遣かアルバイトかという選択に迷ったら、「あとは、あなたが決めることよ」としか僕には言えません。
ただ、これを書いた目的でもありますが、僕は、どんな人にも自分すら知らない、やるべきことか使命のようなものがあると思っています。
そして、細かい性格というのとは、ちょっと違うのですが、「こだわり」をもって選択して欲しいのです。
特に、口コミ情報だとか、いいことばかり書いてある企業情報とか派遣会社のスキルアップ情報だとか、そんな神話にまどわされないで欲しいと強く思っています。
それらの情報がすべて嘘といっているのではありません。
ただ、同じ情報でも、あなたの友達には当てはまっても、あなたには当てはまらない場合も多いのです。
そして、他人は誰も助けてくれません。
正直、派遣かアルバイトかで悩む方は少ないように思うのですが、これに類した選択は日常的にあると思います。
そんな中で、仕事を選ばないという選択も当然ありだと思います。
しかし、この場合でも、仕事を選ばないという選択をした場合と、なんとなく選んだ場合とでは、雲泥の差があると僕は思っています。
要点をまとめます
・ 派遣とアルバイトの主な違いは雇用主が違う事である
・ 仕事内容は簡単なものになるほど、派遣とアルバイトの差がなくなる
・ 売れるスキルを持っているなら派遣を選択するほうが良いかもしれない
・ この際、生活や目的を見直してみる
・ あとは、あなたが決めること
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20180914 by okkochaan