同一労働同一賃金が格差社会を助長するというシナリオ

2020年4月から同一労働同一賃金が施行されます。

 

しかし、あたかも明治憲法の広布の時に、内容を知らずに国旗をもって祝った当時と同じように、一般国民はこの同一労働同一賃金がどのような結果をもたらすか、あまり考えていないように思えてなりません。

 

実際、ある調査によれば、同一労働同一賃金を7割の人が良いことだと思って期待しているとのことです。

 

もちろん、そのように事が進めば、喜ばしいことです。

 

ですが、同一労働同一賃金を取り入れようとすれば、かなりのハードルが予想され、結果として格差はむしろ広がるという意見もあります。

 

同一労働同一賃金については、平均賃金を押し下げ、労働者の意欲が低下する懸念について、鋭く指摘した方もいました。

 

しかし、残念ながら、この点を深く考慮することもなく、欧州諸国の非正規雇用者の賃金が正規雇用者の賃金の80%相当であるのに対し、日本では50%程度であることを改善するという目的を優先し、税収をあげるために、同一労働同一賃金が法律に盛り込まれました。

 

ここでは、同一労働同一賃金が本当に政府が発表しているように、全体の給与水準のレベルアップをもたらし、結果的に増収につながるというシナリオに対して懸念されることを記しておきたいと思います。

 

企業が現在の財源で経営するために何をするか

 

同一労働同一賃金では、正社員の給与をさげることを禁じています。

 

しかし、正社員の給与をさげず、同等の仕事をしている非正規雇用者の賃金をあげるとなると、単純に企業の負担が増えるだけです。

 

ここからは業種によって対応も異なってくると思いますが、以下のようなことが想定されると思います。

 

① 正社員と非正規雇用者の業務内容、責任を区別する

企業が同一労働同一賃金にしないためには、業務内容や責任、または配属の変更に関する扱いを別にすればいいわけです。

 

このため、業務内容だけをとれば大差がない場合でも、同一労働同一賃金にする必要はないことになります。
(もちろん無制限に許容されるわけではなく、その比重は考慮されなければなりませんが、企業側に同一労働としない大義名分は簡単に与えられます。)

 

②正社員をざっくりと2つのカテゴリーに分ける

正社員を会社経営にかかわる業務を行う社員とデイリーの業務を行う社員とに分け、デイリー業務を行う社員の給与を段階的にさげていくことで、オペレーションコストをおさえることができます。

 

デイリー業務を行う社員と同等の非正規社員についてのみ同等の待遇をすれば、同一労働同一賃金は実現できるし、業務の質の低下も防ぐことができます。

 

③一般の作業レベルの一人当たりのコストは出来るだけ下げる

比較的習熟が容易な作業で、パート社員で動かしている仕事について、可能な限りコストを下げるという動きは、より鮮明になるのではないでしょうか。

 

パートの方の賃金があがる要因としてあるのは、採用面での問題だけかと思われます。

 

つまり企業は、非正規社員の採用に問題がなく、最低賃金にも抵触しないぎりぎりのところに時間給を設定することを目指します。

 

この環境で同一労働同一賃金を主張しようにも、同一労働をしているのは、作業系の契約社員ぐらいである場合も多くなり、その仕事でよりよい待遇を期待するのはむしろ難しくなっていくのではないでしょうか。

 

働き方改革関連法で罰則規定を伴って変更される残業時間の規制やインターバル制度などが、ロボットを扱うように作業系のパート社員や派遣社員を管理し、収入は頭打ちどころか下がる可能性も高いと思われます。

 

これに加えて、同じく法改正による外国人労働者の受け入れと、AI技術の取り込みが、給与条件をさらにあげにくくするのではないでしょうか。

 

正社員の仕事は激化する可能性が高い

同一労働同一賃金は、正社員の仕事にも大きな変化をもたらすと思われます。

 

前項で述べた通り、業種によって比重は異なるも、傾向としては、正社員に求める経営的な資質は、より重視されてくるのではないでしょうか。

 

そして、正社員というステータス=エリートというカースト制度が生まれるかもしれません。

 

よく指摘されていることですが、EU諸国の働き方が「職務給」であるのに対し、日本での働き方は「職能給」で組み立てられています。

 

つまり、日本では、会社への滅私奉公的な貢献が評価され、レールを踏み外さない限り定年までの雇用が担保されてきました。

 

これは、いい悪いの問題ではありません。

 

ただ、同一労働同一賃金という職務給的な価値観が、職能給という価値観をもつ日本企業に法律を根拠として入り込んでいくということです。

 

これは、2つの全く違った道具で、同じものを計測するということなので、単純にかなりの力技であると言えるでしょう。

 

その意味でも、同一労働同一賃金が俎上にのぼる仕事については、同一労働でないことが誰に眼にもあきらかな状態で正社員を配置するようになると思えます。

 

極論すれば、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人のみが正社員というステイタスを手にすることが出来、それ以外は契約社員でまかなえれば、企業としては、ベストなコストパフォーマンスを得られるわけです。

 

そうなると正社員として生き残るために、これまでにも増して滅私奉公と忠誠心を会社が求めてくることは必至ではないかと思います。

 

派遣社員の場合はどうか

派遣社員の場合も、同様に二極化が進むと思えます。

 

もともと派遣社員は正社員の代替として短期間就労するケースと、定型的なルーチンワークを時期による業務の増減に柔軟に対応し継続的にコストダウンを図るために利用するという二つの側面があります。

 

簡単に言えば、高度なスキル・経験を要する仕事と、それほど高いスキル・経験を要しない仕事が現在でもあります。

 

このうち、派遣社員の数が圧倒的に多いのは、当然ながら高いスキル・経験を要しない仕事です。

 

さらに派遣会社も業務効率をあげるために、パターン化できる仕事を大量に受注することを目指します。

 

高いスキル・経験を要しない仕事は、企業にとっては、コストでしかありませんから、企業はできるだけ業務を簡単にして習熟を要しないものにしようとします。

 

それは、もはや現実的になってきた、AIに業務を処理させていく流れとも連動しています。

 

企業にとっても、テクノロジーへの投資は、生き残りをかけた不可避のことです。

 

この時、正社員の配置の最終形は、ほぼ無人のビール工場のように、2人ほどを常時配置すれば足りるような形であるかもしれません。

 

そうなると、企業は自社でパート社員を集められれば派遣社員を使う必要もなくなり、派遣社員とパート社員の給与は低いほうに近づくと思えます。

 

また、高いスキル・経験を必要とする職種は、そのまま残りますが、優秀な人は正社員として雇うようになるし、その部分で一時的に同一労働同一賃金を100%実現したとしても、採用コストとして吸収されるので問題ありません。

 

さらに、派遣社員の場合は、同一労働同一賃金の原則を、派遣会社が定める職種別の賃金をベースに組み立てられる可能性があり、かならずしも、実際の職場での正社員の仕事がベンチマークにならない場合も考えられます。

 

 

まとめると

 

同一労働同一賃金は格差を助長する恐れがある。

 

目的としている正社員と非正規社員の不合理な給与格差を埋めるようには動かず、正社員と非正規社員との区別はより鮮明になり、結果として、低い賃金で安定する可能性が高い。(一時的な上昇はみられるかもしれないが、永続的ではない)

 

その結果、貧富の格差がさらに広がり、物価の上昇や消費税の増税もあり、消費も冷え込み、税収も増えない。

 

以上、悲観的な意見になってしまいましたが、この同一労働同一賃金からは、明るい未来がどうしても描けません。

 

20190306 by okkochaan