【派遣営業のトラブルログ】Kさんが貰ったすごい手紙

派遣営業のトラブルログの第2回は、Kさんがスタッフから貰ったすごい手紙について書きます。

 

Kさんとは、このブログでも記事に書いたことのある非常に個性的な営業です。

 

では、さっそくいってみます。

Kさんの貰ったすごい手紙

 

営業もベテランになると、顧客もスタッフも営業に似てくるという現象があります。

 

これは実に不思議ですが、特にKさんの貰った笑える手紙を思い出すと、そのスタッフの方が手紙を出したのは、話をしてもKさんに通じないので、しっかりと伝えたいという思いがあることがわかります。

 

おそらく、営業担当が僕であれば、こんな手紙はこなかったのではないかと思います。

 

確か、お歳暮の時期だったと思います。Kさんあてにスタッフから菓子折りが届き、そこに手紙が入っていました。

 

僕も菓子折りを貰うことは結構ありましたが、ここまで丁重な手紙が同封されていたことはなく、可愛らしいメッセージカードが添えられているものばかりでした。

 

その手紙は作法にかなった和紙の封書に、達筆な筆で書かれており、和紙も上質なものを使っており、見せて貰った僕の第一印象は、ずいぶんと古風で品のあるスタッフだなというものでした。

 

女文字の毛筆でかかれており、作法どおり時候の挨拶から入り、派遣先での仕事の状況など情景が目に浮かぶようであり、なかなかの名文でした。

 

ただ、文面を読む限り、さして困っていることもなさそうです。

 

それにしても、お歳暮につけた手紙にしては、丁寧すぎるなと思い、2枚目までを流し読みをしました。

 

しかし、最後の3枚目に入ったところで、突然語調が変わったのです。

 

ところで、いよいよ料金改定の時期がやって参りました。

今年こそは、K様の強い営業力で、ぜひとも料金アップしていただきたく、お願い申し上げます。 かしこ

 

Kさんのちょっと苦虫を嚙み潰したような顔をみて、僕は思わず笑ってしまいました。

 

そのスタッフと同じ人かどうかわからなのですが、Kさんは、頭がいいのか悪いのかわからないところがあり、変な契約を結ぶのが大好きな人です。

 

例えば、派遣料金を3部署で割り切れる形にするという名目で派遣先に交渉し、実際には、請求金額を割高にするために、1か月45万円の固定として1部署の負担額を固定で15万円に設定します。

 

一方で、支払いを時間給に設定し、ここでも粗利率を上げるというちょっと問題ありそうな契約です。

 

月額45万円は、スタッフが休もうが残業しようが影響を受けない契約にするのです。

 

そういえば、最近、Kさんにしては珍しく、スタッフにフォローコールを入れていると不思議に思っていたのです。

 

電話では、しきりと、疲れたら無理しないで休めとか、残業はするなよとか、Kさんらしからぬことをいってました。

 

とくに残業をするなについては、しつこいぐらい繰り返していたのですが、それはこの契約で残業が発生すると、粗利に直接影響があるからだったのです。

 

休めば有給休暇を使わなければ無給なのに、請求額は影響を受けないので、ここでも粗利が出ることになります。

 

このスタッフが手紙の主と同じかどうかは、わかりませんが、Kさんの場合、そもそも普通の派遣契約の方が珍しいぐらいだったので、似たような何かがあるスタッフで、手紙でKさんの営業力で交渉と書いてはいますが、案外、スタッフは事情をお見通しの可能性も高いと思いました。

 

つまり、スタッフは、Kさんに派遣先と交渉して欲しいなどとは思っておらず、Kさんに時給を上げてくれと菓子折りを添えて手紙で交渉しているわけです。

 

それにしても、和紙の封書に和紙の便せんに毛筆で奥ゆかしく、しかも初めから2枚目までは一糸乱れぬ荘重ともいえる見事な手紙を3枚目の結びで時給アップとなんとも不調和というか竜頭蛇尾とも言える形の手紙に、僕は笑いが止まりませんでした。

 

その後、Kさんの顧客を引き継いだ僕は、Kさんが交わしている変な契約をすべて修正する仕事をすることになります。

 

今考えても、どうしてあんな変な契約ばかりしていたのかと思うばかりです。

 

例えば、ある建築会社への事務員にかかる派遣料金の請求書の項目は「砂1トン」となっていました。

 

当然、スタッフへの支払いは時給建てでの計算です。

 

請負契約ならば、こうした請求支払い(月額で請求し時間計算で支払う)は普通ですが、どうやらKさんは人材派遣と請負の違いの認識もなかったのかもしれません。

 

Kさんの契約は、期せずしてかそうでないのか不明ですが、請負の粗利の高さと、瑕疵担保責任のない派遣契約のいわば、いいとこどりをした都合のよいものになっていました。

 

ある時、スタッフの勤務に関係なく請求金額が固定の契約で、スタッフが病気で1か月に3日しか働いていない月がありました。

 

粗利は派遣料金の80%を超えています。

 

僕はかなり迷いましたが、請求書はそのままの金額で送りました。

 

しかし、これにはさすがに派遣先も黙っていませんでした。

 

そこの建設会社の担当者は、「確かに契約はスタッフの勤怠に関係なく固定の契約になっているので、裁判でもすれば負けると思うけど、でも、これはないんじゃない?」とのことでした。

 

僕はどうしてこんな契約になっているのか、その経緯を聞いたところ、契約は、Kさんが3の倍数にしないと具合が悪いと言って、Kさんの提案を受けて結ばれたようでした。

 

3で割るにしても、きれいに3の倍数にする必要などないし、請求金額が変動してまずい事情もないとのこと。

 

Kさんには、小数点以下の計算ができるという認識がなく、小学生の算数レベルで止まっているのかもしれません。

 

僕が契約を時間請求、時間支払いの人材派遣のあるべきクリアーな形にもどしたのは言うまでもありません。

 

その後、その事業所では、何人もスタッフの増員をしてくれました。

 

それと、なぜかワープロ1台のレンタル料金の請求書をある証券会社に毎月発行していましたが、この契約の派遣スタッフの名前は、Kさんになっていました。

 

つまり会社の記録としては、ワープロのレンタルなどしておらず、Kさんというスタッフを派遣していることになっているのです。

 

そのワープロを「派遣先」である証券会社に僕も実際に見に行きましたが、それは、その証券会社が固定資産のチェックをしていて、レンタルされているワープロを確認してくれと言う話があったからです。

 

行ってみると、どうみても古くて、毎月のレンタル料金の支払いはとっくの昔に原価以上になっているのは計算しなくてもすぐにわかるシロモノでした。

 

しかし、女性社員にそのワープロは役に立っているのですかと聞いてみたところ、すごく重宝しているという話で、とても大事にしてくれているし手配してくれたKさんにすごく感謝していたのです。

 

ですが、そのワープロは、派遣会社の資産ですらなく、Kさんがスタッフの研修用に置いているワープロを勝手に持って行ってしまったようでした。

 

そのワープロは別のワープロスクールからレンタルしていたものだったのです。

 

僕は、まずそのワープロスクールへの支払いを止めました。

 

レンタル元は、個人経営のワープロスクールで、当然、レンタル料を払ってくれと言ってきましたが、僕はとっくの昔に原価以上の支払いをしていることを話し、納得してもらいました。

 

証券会社への請求もその後とめました。

 

証券会社からは、請求書が来ないと連絡がありました。

 

僕は、その証券会社が請求書を到着ベースで処理していて、そのまま契約が終わればと思っていたのですが、そこはさすがに部の女性社員が毎月くる請求書を把握し、しっかりチェックしていたのです。

 

僕はすでに原価以上をいただいているので差し上げますと言い、終わりにしました。

 

それにしても、これだけ滅茶苦茶なKさんですが、その証券会社でのKさんの人気は絶大なものがあり、僕は引き継いで重荷に感じました。

 

こういっては何ですが、派遣会社の営業の一人にすぎないのに、その会社にKさんが行くと、部長はじめ女性社員や運転手、用務員のおじさん、駐車場の管理人にいたるまで、「Kさんが来た!Kさんが来た!」と知れ渡るぐらいすごかったのです。

 

僕のなかには、無意識に「偉大なKさん」の後任としてやれるだろうかという思いが常にありました。

 

僕が知るKさんは、品がなくて金銭に細かく、卑怯なうえに小心者で、いいところなんて全くない人です。

 

営業としてみても、明るい対応だとか、清潔な服装とか、礼儀正しいとか、すべてが真逆であり、どうみても営業失格の人なのです。

 

それでも、Kさんには、嫉妬するぐらいお客様の圧倒的な人気があったのです。

 

これだけ客からの人気があると何も怖いものがありません。

 

なにしろ、その証券会社をあげてKさんのファンなのです。

 

人相風体は、どうみても寅さんをかなり下品にしたようなKさんなのですが、それでもあの人気は本当にすごくて真似など絶対にできないと僕は思いました。

 

おまけに、その証券会社が新発債や株式発行の幹事になっている上場企業をKさんはどんどん紹介してもらっていたのです。

 

僕も最終的には、その証券会社ではそこそこ人気がでるようになれましたが、あのKさんの圧倒的な人気には遠く及びませんでした。

 

結局、Kさんのように人気をともなった強い個性がある人間が、営業としては最高なんだなと僕はつくづく思ったのです。

 

Kさんについては、以下の記事でも書いていますので、興味をお持ちになったらお読みください。

 

人材派遣のおもしろ話 【営業列伝 Kさん】

 

20190204 by okkochaan