これは何の花?答えは記事の終わりにあります。

5月15日の記事ですが、コロナやオリンピックの話題で埋もれたなかで、見つけたものです。

 

僕がこれを書くのは、この大林さんのこと知り、派遣とマネキンの違い、ひいては日本の労働者の先進国で最下位といってもいい悲惨な状況を知って欲しいからです。

 

人材派遣にも誤解なさっている方が多いですが、マネキンとなるとさらに労働者の状況はひどくなります。

 

正確にいうと、大林さんの場合、労働者にあてはまらない可能性もあります。

 

この記事をお書きになった水島氏も記事のなかで書かれていますが、NHKの番組には高い評価をなさっていてそれには僕も異論はないですが、残念なことに大林さんを「派遣労働者」としていて、マネキンであるという認識が全くないのです。

 

僕にとって驚きなのは、ドキュメンタリーの記者さえ、この派遣労働者とマネキンの違いに無知であるということでした。

 

このことから、世間一般の方々が何も知らないのも当然なのかなと思います。

 

派遣会社に勤務すれば、派遣法を学ぶなかでの基本事項(ただしその判断は複雑で難しい)なのですが、一般的には知られていないようです。

 

ここでは、派遣労働者とマネキンとの違いを主に書きますが、それによって、大林さんの陥った状況の悲惨さが少しはわかるかなと思うからです。

 

それにより、大林さんの苦境への理解も深まることと思うし、日本の労働契約のなかで、うやむやのままずっと続いているマネキンの危険性にも気づくことと思います。

 

では、派遣とマネキンの違いをなるべく分かりやすく書きます。

 

水島氏は記事のなかで、大林さんの仕事を「業務請負」としています。

 

ごく簡単に言えば、他人の指示で働き、給与をもらっている人が労働者であり、自分の裁量で働いていれば業務請負となります。

 

しかし、大林さんの場合、マネキン紹介所からスーパーなどに人材紹介をされているという解釈も可能で、その区別は報酬の支払いが給与で源泉徴収されているか事業所得としてされているかが外見上の第一判断基準になるかもしれません。

 

水島氏の取材によれば、大林さんの契約は業務請負になっており、あきらかに派遣社員として労働者の扱いを受けていなかったことがうかがえます。ただし実態は派遣なので、偽装請負の疑いが濃厚ですが。

 

その人が労基法上の労働者に該当するかどうかは、いろいろなところ(労災、確定申告、労基法など多数)に影響するため、非常に重要であるにもかかわらず、実態としては判断が難しい場合も多いのです。

 

単に税務上からいっても、給与として報酬をもらえば源泉徴収されているし、事業所得として扱われれば、事業者所得として申告・納税する必要があり、やっている仕事は大して変わらないのに、その煩雑さは絶句するレベルです。

 

でも考えてみてください。いったい誰が、マネキンをし、コロナ禍で仕事が激減してアパートも引き払ってホームレスになった大林さんを「事業者」と考えるでしょうか?

 

労働者の定義については下記を参考にしていただければ、問題点がはっきりします。

 

「労働者」について – 厚生労働省

 

マネキンの問題をもう少し掘り下げてみましょう。

 

マネキン(仏: mannequin)は、店頭において各種商品の宣伝・販売促進にあたる販売員(宣伝販売促進員)や、その職種を指す。服飾品の販売から使われるようになった用語であるが、食品の試食・実演販売などにも用いられている。-Wikipediaより引用-

 

マネキンの仕事は誰しも目にしたことがあるはずです。

 

大林さんもこの仕事を気に入っていたと記事にもありますので、決して仕事内容が問題なのではありません。

 

でも問題なのは、所得形態にあいまいさが残る状態が続いており、実情は、働く人に不利に動いていることです。

 

マネキン紹介所は有料職業紹介を行っているのですが、人材派遣を行っている場合もあり、働く人からすれば報酬の出どころが変わったり、変わらなかったり(これはこれで問題)するのです。

 

もし大林さんが、派遣社員としてマネキンをしていたのであれば、NHKの記者が派遣社員と言ったことも正しいことになるのですが、働く側からすれば、いくら報酬がもらえるか以上の興味は普通はないでしょうし、それが結果として情報弱者を作り、いいように利用されているという解釈も可能です。

 

現在、人材派遣法が対象職種を特別法がない限り原則自由にしているため、派遣法一本で統一できれば問題はないのですが、業界の闇というかそう簡単にはいかない事情があります。

 

法律といえども、業界の情勢を無視できないため、マネキン紹介所も労働法を整備する過程で、本音は禁止したかったわけですが、それでは非常に多くの働く人が影響を受けることになるため断念したという経緯があります。

 

マネキンは考えてみると残酷なぐらい便利な存在です。そして、労働法が踏み込めなかった必要悪です。

 

そもそも雇用主がはっきりしません。

 

インポート・ブランドといわれる、日本人が大好きなブランドものの会社の人事部を悩ましているのもマネキンの位置づけなのですが、本音を言えば、マネキンは法的に雇用主の責務を負うので、それを免れたい、しかし人員調達の速さと料金の安さは派遣会社の比ではないために現場ニーズとしては圧倒的にマネキンを利用したいということなのです。

 

マネキンを使いたくないけれども、使わざるを得ないという苦しい事情があります。

 

結果、人材紹介を受けているのか派遣社員なのか、おそらく本人すらわからない、きわめてあいまいな脱法的な状態があちこちで生じているというのが依然として実態なのではないでしょうか。

 

大林さんが業務請負をしているのであれば、雇用主はいないわけですから有給休暇もありません。仕事が不安定であるのに有給休暇もないことになります。

 

しかも水島氏の記事によると、大林さんのようなマネキンは、スーパーなどの店員からは下にみられ、客からも馬鹿にされるという扱いを受けます。

 

こうした苦境を乗り越えるには、気持ちの持ち方の他に、寅さんとか筑波のガマの油売りの口上のようなスキルがあれば、その苦境もなんのそのとなるかもしれません。

 

しかし、多くの人はそこまでいけません。

 

一方、世の中には無能なのに学歴がよかったりコネがあったりで、出世したり裕福にくらしている幸せな人たちがいます。

 

でもマネキンをしている大林さんには、なんの補償もなくコロナでの事業者としての交付金を受け取れるかどうかもわからない状況だったと思います。

 

あたかもマッチ売りの少女が幸せそうな家族を雪でこごえながらのぞいたような心境に大林さんもなったかもしれません。

 

時々、意味不明な奇矯な言動があったと書いてありますが、それは、どうにもならない現状を超えたいという発作的におこった感情からでているものと僕には思えます。

 

「事業主」である大林さんは、コロナに直撃されて仕事がなくなり、ホームレスとなりました。

 

もしかすると交付金がもらえるということは考えなかったのでしょうか。思ってはみたけれど、あの複雑な手続きを考えただけで、やめたのでしょうか。

 

かつては、アナウンサーや声優をめざしたこともある大林さんですが、状況にもめげず快活だったというのは救いです。

 

無法者の手にかかって突然、命を絶たれてしまった大林さんに共感する声も多く、「彼女は私だ」と考える人たちが多くいらっしゃることも救いです。

 

そして、大林さんが亡くなった場所に置かれたたくさんの花や飲み物、いつも僕が思うのはこうした形であらわれている人間の無償の心です。

 

ある牧師さんからこんな話を聞いたことがあります。

 

「よく私にお金をかりにくる女性がいました。一回にかりる金額は多くても1万円で、5千円ぐらいの時が多かったのですが、そのお金は一度も返してもらったことがありません。

私は本当は貸したくなかったのですが、お金を借りるために嘘の話をし、ねえちょっと貸してくれないと言われると、嘘だろうとも言えず、断れずに貸し続けていました。

そんな彼女が突然亡くなりました。

そこで、私がとても驚いたのは、彼女の葬儀に非常に多くの方がきたことでした。

借金を踏み倒してばかりいる彼女のことだから、葬式にくるひとなどいないだろうとすら思っていたからです。

しかし実際には、本当に多くの方が来て、しかもそのほとんどが、彼女にお金を貸している人だったのです。

そして、彼らは心から彼女の死を悲しみ、泣いていたのです。

私は、頭を殴られたようなショックを受けました。

私は牧師であるのに、神の心は、彼らにこそ宿っていると気づいたからです。」

 

僕は価値のある人生なんてないし、無価値の人生もまたないと考えています。

 

だから、大林さんの人生は決して無駄ではなかったとはいいません。

 

そこに意味を見出そうとすることが時間の浪費だと考えているからです。

 

物事すべてに意味を与えたがるのは、人の性かもしれませんが、それは本当は意味がないことを否定したいからだと考えています。

 

そんなことよりも、「彼女は私だ」と大声で叫び、SNSで拡散するほうが気が利いているように思います。

 

とはいえ、僕も彼女に一曲ささげてこの記事を終えます。

 

 

大林さんも、裏窓から多くのことを観ていたはずです。

 

この記事を書きながら、長い間、途中でとまっていたホームレスOさんの記事を書かなければと思いました。

 

平成の酔生夢死【ホームレスOさんとの交友記】 第2回 出会い

 

冒頭の写真の答えは、ジャガイモです。生ごみから勝手に生えてきたものですが、ここまで成長すれば収穫も期待できます。

 

お読みいただき、ありがとうございました。

 

20210519 by okkochaan