映画『市子』の考察というか感想というか、もやっとしたことについて書いておきたいと思います。
ちなみにネタバレはありませんが、書く上で最小限必要なことには触れるかもしれません。
これをお読みになってくださった方は、映画が好きなかたでしょうか?それとも映画、市子に感動してより深く味わいたいと思ったかたでしょうか。
僕は名画の基準とは、それが現実の個人的体験以上のものとして、観終わったあと、いつまでも心に残るものかどうかだと思っています。
いつまでも心に残るとは、繰り返し反復して思い出すということです。そしてその思い出しが個人的な実体験と変わらないレベルまで醸成されることです。
それは世間的な評価とは関係ありません。
展開手法について
この市子という映画の展開手法は、まるで小説を読んでいるように、時間軸が前後するとともに、複数の登場人物、証言者の視点からの映像に変わるものです。変わると言っても目まぐるしく変わるわけではなく、ストーリーをもった変化であり、回想でもあります。
しかし、面白いのは、そうした個別の詳細な記憶や証言があり、主人公の市子への同情とか悲哀とかを感じるのですが、かといって理解できない点もどこまでも残るところです。
市子は戸籍がないという数奇な運命に翻弄されています。ちなみに戸籍がない方は日本に一万人ほどいて、その多くは出生届がだされないことによるものだそうです。またこうした方々を救う方法が制度化されていないため、無戸籍であると大変な苦労を背負い込むことになるそうです。
話がそれたでしょうか?わたしは少し話がそれた感じがありますが、その理由はこの映画にとって無戸籍の問題は、サブテーマだと思うからです。
この映画は良きにつけ悪しきにつけ、テーマが非常に多いです。それは受け手によって様々な受け取り方を可能にする一方で、全体の印象がぼやけ、あるいは冗長に感じられる理由にもなります。
・ 無戸籍問題
・ 恋愛(無私の愛情)
・ 貧富の差別
・ 底辺の生活者たち
・ 自然の美しさ(海、木立、風)
・ 暑い夏への郷愁(汗、扇風機、セミの声)
・ 犯罪(許される犯罪があるのか)
・ いじめ
ざっとあげただけでもこれだけの小さくないテーマがあります。
これらのテーマをかかえながら、映像としてまとめあげていく作業がいかに大変であるか、わたしには想像できません。
一方で、まるで素人映画のような作り方にも感じるので、素材をとにかくおしみなく出し切ることが目的であり、映像で感じるものがあればそれで良いというものなのかもしれません。
なんどか観て、なにかわかるものがあるかもしれないので、そしたら続きを書きたいと思います。
そんな思いをいだかせてくれる映画でした。
20240315 by okkochaan