日本社会のリストラは2017年を底としてV字回復ならぬV字上昇です。
そして黒字リストラという現代の姥捨てが確実に存在しています。
特に2019年には製薬会社を中心とした黒字リストラが特徴的でした。
この動きは兆候というにはあまりにもはっきりしており、対岸の火事としてみるのではなく、老若男女問わず、絶対に無視せず直視したほうがいいと思います。
たとえ幸か不幸か身近に黒字リストラが起きていないとしても、この大きなうねりの中で無傷でいるのは困難なことだからです。
ここでは、まず黒字リストラとは何かについて解説し、それに対する世間一般の意見を紹介、最後にどのように対処していくべきかについて書きます。
黒字リストラとは
黒字リストラとは、文字通り企業の業績が黒字であり、社員を食わすのに十分な余裕があるにもかかわらず、社員を整理することです。
特徴的なのはターゲットとなる年齢層が下がってきていて、まさに働き盛りの45歳ぐらいからが対象になっていることです。
ご存知の通り、日本の大手企業では男尊女卑がいまだ存在し、結果、45歳以上の社員となると圧倒的に男性が多い状態です。
つまり、現代の姥捨ての主な対象は、おっさんということになります。
なぜ企業が黒字リストラに走るかといえば、それはグローバルではスタンダードな経営方針だからといえるでしょう。
かつてアメリカのGEが行ってきた大規模なリストラと同じです。
終身雇用制がなくなったという声を聴いて久しいですが、感覚的にはまだまだついていけてない方も多いはずです。
かつて、リストラといえば、年配者からというのが当たり前であり、新卒から面倒を見ていた部下からリストラを告げられるドラマだったり、「君の給料で若い人が3人やとえるんだよ」と諭されてクビになったりしていました。
しかし、いまや企業はよりドライになり、簡単に言えば、年齢にかかわらず生産性のない人間には辞めてもらうという方向ですすんでいます。
そもそも、企業は誰のものなのか?ということについてですが、黒字リストラを断行する背景には、企業は投資家のものであるという考え方があります。
企業は人なりとか、企業は社員のものという考え方は、もはやおとぎ話の世界になっているかのようです。
企業の経営者には株主である投資家の期待に応えるという重要な仕事があります。
それができなければ、経営者がリストラの対象となってしまうからです。
そして、現在の日本企業は株価だけは日銀の介入で保っているものの、今後の新商品や新ビジネスなど伸ばせる要素に乏しい状況です。
内部保留したお金はあっても使い道がありません。
結局、今後、先細りになるのは見えているので、売り上げはなくても業績をあげるためには、無駄なお金を削るしかありません。
そのなかで最も即効性がありしかも大きな「利益」を生むのは人件費の削減なのです。
哀しいかな、生産性が低いおっさんはどう考えても丁度良いターゲットです。
まさに格好の生贄であり、姥捨てなのです。
おっさんの多くは結婚し子供もいたりするかもしれず、あるいは結婚したいと努力していたり交際中であったりするかもしれません。
しかし、黒字リストラを進められているおっさんは、これまで「いい学校に入っていい会社に入って定年まで働いて」と思い、入社してからは、出る釘は打たれぬように、文字通り滅私奉公してきたタイプが多いと思われます。
僕は、こうしたおとなしいタイプの方が本当に怒ったときの怖さを知っています。
ほとんどは根拠のない勝手な思い込みであり、ものごとは順番に並んでいればやがて手に入ると信じるという誤解からきています。
いや、これまでは確かにその通りになってきたので、誤解というのは言い過ぎかもしれません。
それでも若い頃は実力主義で評価されるべきだと信じ、年功序列の給与体系を変えるべきだと考えていた時期もあったのでしょう。
しかし歳を重ねるにつれ、だんだん居心地が良くなり、それなりにお金も必要となり、年功序列の制度をありがたいと内心思っています。
ただ年功序列どころか終身雇用制度も崩壊し、それでもなんとか定年までぎりぎり生き残りたいと思っていたところに、全く思いがけず、黒字リストラの攻撃が始まったというのが、おっさんの現状です。
誰も抗議の声をあげない不気味さ
黒字リストラについては、ストライキで不当解雇だと叫んだりというよな騒ぎが起きていません。
これはある意味、非常に不気味なことです。
僕が黒字リストラを現代の姥捨てだと思うのは、まさにこの点にあります。
姥捨てで有名なのは、深沢七郎さんの小説、「楢山節考」です。
年老いた母や父を山に捨てに行く話ですが、文字通り口減らしをするための残酷な話といえます。
できれば見ないで目をつぶっていたい領域ですが、この話の本当の怖さは、誰も決して逃れられない宿命を感じるところにあると思っています。
黒字リストラと姥捨てとの共通するものを感じるのは僕だけでしょうか。
姥捨てだって、実際にはかなりの抵抗があったように思うし、きれいごとではなかったはずです。
黒字リストラだと現在は早期退職者を募集するという形が多いし、今のところ好条件の場合も多いので、ある意味、うまく辞めさせられているわけですが、損保ジャパンの例のように余った従業員を介護事業に転属させていくという画期的な手法も出てきています。
この場合は、これまでの損保ビジネスとは全く違った介護の現場にいきなり異動させられるようです。
どうしても会わなくて辞める場合は自己都合退職になるので、早期退職の特典が得られません。
恐いのは、こうした手法は一般化する可能性が高いことです。
なにしろ、日本企業の場合、大手で名のある企業が始めてると、あたかも義務感に突然おそわれて、あっという間に広がることは予想できるからです。
いずれにせよ黒字リストラについては、労働組案なども全くあてにできない状況です。
労使関係は、AIというスーパー労働者の誕生で完全に様変わりしました。
またAIでなくても、優秀な若い人には破格の給料を提示するということも当たり前に行われつつあります。
AIのほうが安いし文句はいわないし、残業代もいらないし、間違いも少ないし、感情的になることがないなど、人間を使うよりも経営側にとって都合がよいことばかりです。
この問題はまだ誰もが認識しているというほど顕在化していないので、あたかも見えない敵と戦っているようであり、抗議の声さえあげられません。
それだけAIの仕事を奪う力は恐ろしいものがあるわけですが、リストラされる側は、45歳という責任ある年齢で仕事がなく収入もないなどと言っていられるはずもありません。
ではどうすれば良いのか
かつて、企業戦士たちは、どこでも生きていけるスキルということを言われてきました。
それは営業力であったり、アイデアの発想力であったり、リーダー力であったりですが、基本的には現在の仕事の延長上で考えられたことでした。
もちろん、現在でもほとんどの人は同じように現在の仕事の延長上で、身の処し方を考えざるを得ないでしょう。
しかし、できれば現在の仕事の延長上で考えるのではなく、多少の関連は残しつつも、基本的に全く別の領域でお金を稼ぐスキルを身に着けた方がリスクヘッジという意味では有効です。
延長上の仕事が売り手市場であればいいですが、それはほとんどの場合、難しいし、同時にリストラに合った、同じような人たちとの悲惨な戦いが想定できるからです。
なので、僕の結論としては、なんでもいいので、本業以外で生計を立てられる体制を1日も早く作っておくことです。
自分のプライベートな時間をゼロにしてでも、いろいろトライしてみることが、ものすごく大事だと思います。
とはいえ、僕もそうなのですが、人間、追い込まれないとなかなか本気になれません。
でも、副業への1歩を今、踏み出せたことが、将来おおきなものになって跳ね返ってくると思います。
たとえ失敗したとしても、そこからの学びは大きな前進だからです。
たとえ少額でもいいので、本業以外から収入を得ることを、ぜひ真剣に考えてみてください。
いや考えなくてもいいので、行動にうつしてみてください。
20200123 by okkochaan