安倍内閣の目玉政策である働き方改革法案は、野党の強い反対と厚労省提出のいいかげんなデータのために裁量労働制について断念するということで一旦は落ち着いています。
しかし、僕は国民の多くは平昌オリンピックもあり、また安倍首相の規準が理解できない羽生結弦選手への国民栄誉賞などで、この間、どれほど重要なことが国会で審議されているか知らないと思っています。
これは、恐ろしいことです。
ここでは、国会でも取り上げられた野村不動産の社員が過労死された事件を例に、裁量労働制の違法な適用には残業代を支払って貰うべきだという事と、そうしたいけれども一向に進まない、日本社会の実態はどうなのかということについて書こうと思います。
野村不動産の事件
裁量労働制を全社的に違法に適用し、昨年末に厚生労働省東京労働局から特別指導を受けた不動産大手、野村不動産(東京)の50代の男性社員が過労自殺し、労災を認定されていたことがわかった。男性は裁量労働制を違法適用された社員の一人だった。東京労働局は遺族からの労災申請をきっかけに同社の労働実態の調査を始め、異例の特別指導をしていた。
引用元:ヤフーニュース・朝日新聞DIGITAL 裁量労働制を違法適用、社員が過労死 野村不動産

僕は感覚的にも経験的にも、裁量労働制の違法な適用は社会に蔓延していると思っています。
記事によると、男性社員は転勤者の留守宅を一定期間賃貸するリロケーションの業務を担当していたそうです。
仕事内容は、入居者の募集や契約・解約、個人客や仲介業者への対応などなので、不動産の仕事としても細かな対応を要求されるし、クレイムの矢面に立つことが多い仕事であることが推測されます。
業務上では、契約トラブルへの対応で顧客や仲介業者からの呼び出しに追われていたそうです。
ただ、一つ一つの業務内容はある意味、どんな仕事でもあるような見方も可能かもしれません。
しかし、男性社員は2015年秋ごろから長時間労働が続き、頻繁に休日出勤もし、体調を崩して16年春に休職しました。
その後、復職しましたが、同9月に自ら命を絶ってしまいました。その後、17年春に遺族が労災申請したとのことです。
問題になっている点
これまでの話だけで、何が問題なのかわかる方は、かなり意識が高いかただと思います。
こうした形でお亡くなりになった社員がいる場合、大手企業とか官庁とか社会的に名の通った大手であるほど異常なぐらい気を使います。
目的は、遺族から訴えられないためであるし、仮に企業側の責任が思い当たらないように思えても、どこで批判されるかわからないので、可能な限りのリスク回避をしようとするのです。
実際に僕は大手電機メーカーが遺族から、自ら命を絶った原因は仕事とは無関係であるという文書にお悔やみに行ったタイミングで署名を貰っている例を知っています。
遺族からすれば、因果関係がどうというより、亡くなった方が戻ってくるわけでもないし、多額の香典を貰ったり、これまでの恩義を感じたりして何も言わないことも多いと思うし、事実、上記の例もそうでした。
少し話がそれましたが、野村不動産で問題になっているのは、同社が、調査や企画を担う労働者が対象の「企画業務型裁量労働制」を適用していた社員に、営業など対象外の業務をさせていたことです。
これについて、東京労働局は「野村不動産」の社長に対して特別指導をしています。
ただ、これでもどうも、すっきり感がないのは、男性社員のリロケーション担当業務は、交渉や対応を必要とする営業業務そのものですが、これを「企画業務型裁量労働制」とみなしている会社は多いのではないかという点です。
企画をプランニングととれば、広義では営業業務全体がルーチン業務がほとんどでマニュアル化できるとして、顧客単位で交渉とか提案とかを当然していくために、これは「企画営業」であると言えてしまうからです。
僕は、こうした理解が社会全体にあると思えます。
実際に、企画業務型裁量労働制と企画営業の厳格な線引きと罰則規定がなければ、これを遵守させるのは限界があると思えます。
政府が厳しく指導したと言っていますが、きっかけは男性社員の過労が原因で自ら命を絶ったことであるわけで、まさに馬脚をあらわしていると思います。
念のため企画業務型裁量労働制とは
厚生労働省によれば、企画業務型裁量労働制とは以下の通りです。
対象者:事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者
さらに事業場として以下のように規定しています。
1 本社・本店である事業場
2 1のほか、次のいずれかに掲げる事業場
(1) 当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
(2) 本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている支社・支店等である事業場
※ 個別の製造等の作業や当該作業に係る工程管理のみを行っている事業場や本社・本店又は支社・支店等である事業場の具体的な指示を受けて、個別の営業活動のみを行っている事業場は、企画業務型裁量労働制を導入することはできません
引用:厚生労働省ホームページ
ここだけを読むと、野村不動産の男性社員の業務が企画業務型裁量労働でないことは明らかです。
ですが、真の問題はそこではなく、運営において罰則規定がないザル法であることと、その故に、なし崩し的に営業=企画業務と勝手に理解が進んでしまい、それが常態となっていくことこそ問題なのではないでしょうか。
法令での取り締まりの限界
一方で、労働法など法令によっての取り締まりの限界もどうしても感じてしまいます。
僕自身は派遣法がその時々の権力者の意向によって法律が変わったり、あるいは解釈が変わったり、本当に振り回されて生きてきましたので、その馬鹿馬鹿しさがよくわかるし、結果、人を容易に信じないという性格を醸成してしまいました。
法律に罰則規定がなく解釈によっていいように扱われたり、そもそも政治家をはじめ法律を作る側の人間が実態への理解が全くなかったりすることが続けば、政治に期待もできなくなります。
そんな時、僕は亡き母からよく言われた言葉を思い出すだけです。
「あてにならない人をあてにするのは、するほうが悪い」
そろそろ実態に基づいた議論をして欲しいとむなしく願うばかりです。
安倍首相も実態調査をするといっていますし、その実態調査には事業主よりも労働者を対象にランダムな手法で行って欲しいと思います。
裁量労働制の違法な適用には残業代を支払って貰おう
働く人の側も、もし裁量労働制の違法な適用である場合には残業代を支払って貰わなければなりません。
これがまた日本人は会社とか上司に忖度して、ものすごく遠慮深い。
例えば管理職に、「〇〇くん、悪いんだけど、10時以降は勤務記録をつけないでくれる。僕の管理責任になるので頼むよ。」とでも言われたら素直に従ってしまったりするのです。
また、下手に騒いで、会社に居づらくなることを避けたいという気持ちもわかります。
こうして複雑な利害関係を読みながら身を処していかなければならないのがサラリーマンなのです。
このようなインタビューする側の状況も把握したうえで、真意を導き出すことこそ本当の実態調査だと思います。
20180304 by okkochaan