2018年も10月を迎え、気がつけば3年前の9月30日が派遣法が改正され派遣期間が原則3年上限となったので、10月1日は3年を超えた初日ということになります。
それにしても、世間は不気味なほど静かです。
2018年問題で指摘されている派遣切りも静かに行われているのでしょうか。
派遣村という言葉がはやったのが、ちょうど10年前でしたが、それと比べると生活にかかわる大きな問題なのに、どうしてこれほど静かなのでしょうか。
僕にとっては、どこかに爆弾が落ちたのに何事もなかったかのような状況に思えて、不思議でなりません。
ここでは、この2018年問題に潜む日本の労働問題について書こうと思います。
2018年問題を簡単におさらい
2018年問題を簡単におさらいします。
これは2つの法律が関係しているので、ちょっと複雑な感じがしますが、整理すると以下の通りです。
2018年4月1日 雇用契約法が施行されて5年目。同一の事業主に雇用されていた契約社員、パート社員、派遣社員などから無期雇用の申請があった場合、事業主はそれを拒むことができません。
2018年10月1日 改正派遣法が施行されて3年目。同一の事業所で3年働いている派遣社員が引き続き働きたいと希望した場合に、派遣会社は以下のいずれかのアクションをとらねばなりません。(60歳以上とか例外はあります)
①派遣先への直接雇用の依頼
②新たな派遣先の提供
③派遣元の会社で無期雇用する
以上2つの法律改正が施行後の満期を始めて迎えることで、雇い止めとか派遣切りとか派遣会社の体力がもつかとか、派遣先企業での派遣社員の受け入れ態勢の見直しとかが一気に起こってくることが2018年問題なのです。
*自分がそれに該当すると思われる方は、法律事務所などで書いている記事を詳しくお読みになることを強くお勧めします。
僕が読んだ限りでは、以下の記事が十分に内容を網羅していると思います。
2018年問題!雇止め・派遣切りが相次ぐ?(労働契約法・派遣法)
行政の無理解
それにしても、いつも思う事ですが、行政は労働市場の現場について知らないか、実態を無視しているのではないかと疑ってしまいます。
今問題になっている雇用契約法および改正労働者派遣法については、正社員の促進という目的が込められていたわけですが、その目的に対してどれほどの成果があったのか、ぜひ検証して欲しいと思います。
特に労働者派遣法については、度重なる改正を行ってきましたが、その度に細部のつまらない変更のために現場や派遣スタッフがどれほど翻弄されてきたかと思います。
そもそも日本人の労働観とか、その実態とかが、どのような価値観に支配されて決まっているのかまで徹底的に議論して欲しいといつも思っていますが、改正案については、いつも他の法案に押されて、国会閉会のぎりぎりに矢継ぎ早に決まっているとしか思えないのです。
例えば、派遣法の3年縛りの根拠ですが、なぜ3年なのでしょうか?
だれか、それをしっかり説明できるのでしょうか。
1年ではいけないのでしょうか。5年だとどうですか?
あるいは、上限期間を決めることそのものが適切だったのでしょうか。
などなど、疑問が山積み状態なのです。
非正規雇用者が労働者の半数近くをしめているわけで、少なくとも雇用契約法の5年については、かなり大きな影響があるはずです。
これだけ多くの人がかかわっている問題を国会議員の方々が本気で審議したり知らなことを調べたり聞いたりしていたのか、僕は疑問に思っています。
派遣法ついては、実際に関わった人でなければわからない複雑怪奇な部分がもともとあります。
期間制限のなかった26業種がどうして決まったのかとかの話もありますが、おそらく、ちゃんと派遣法を理解している国会議員は少ないと思っています。
「派遣法は複雑だから、一律3年にしたらどうだっぺ?」
「んだんだ、それがええ。」
とまで言ったら失礼かなと思いますが、実態はそんなところだったのではないかと僕は思っています。
確実にある派遣蔑視の考え
派遣だけではありませんが、非正規雇用者に対して意識的、無意識的な蔑視は確実に存在すると思います。
「正社員になれないから派遣や契約社員をやっている」
という考えです。
僕はその人がたまたま置かれた状況で、誰でも派遣社員や契約社員にもなるし、正社員にもなると思っています。
しかし、それが本当に偏見なく実現できるためには、労働者にとっては、広い意味でのスキル・経験が必要だし、経済全体が活況で労働者の自由な出入りが可能でなければなりません。
また日本特有の中間管理職への過度な責任がかかりやすい状況とか、会社や上司が忠誠心を要求するような状況が、結果として、過労死を生んだり、サービス残業が当たり前という状況をつくったりしているのです。
同一労働同一賃金は僕も賛成ですが、何をもって同一労働とみなすのかについても、あいまいなまま法律だけが先行しています。
正社員の方々の多くは、仕事の成果そのものよりも、無言の重圧に耐えることが多いだろうし、そうなると派遣社員が同じことをしているとは認めないでしょう。
しかし、派遣社員は社員以上に仕事をしていると思っている方も多いわけです。
そうなると、正社員と派遣社員との間には、信頼関係は生まれづらくなり、お互いが監視するかのような関係になりがちです。
それでも多くの企業が派遣という仕組みを取り入れているのは、労働力の調整が容易であること、迅速に不足している人材を確保しやすいこと、雇用主としての責任がないことなどが理由です。
根強くある非正規雇用への蔑視は間違いなく偏見なのですが、その偏見から自由になる道のりは遠いかもしれません。
派遣会社の果たすべき役割
3年前の改正派遣法では、この個人が同一部署で働く期間の上限を3年としたこと以外に、派遣会社に対しては、派遣社員の教育研修の実施義務などが追加されていたかと思います。
確かに、かつてのように多くの新卒を採用し、教育するという体力がある企業は少なくなっています。
企業が人を育てなくなった時に、その代わりになり得るのは現状では派遣会社ぐらいしかないかもしれません。
しかし、僕はあえて言いたいのですが、これは派遣会社に期待しすぎだと思います。
派遣会社には、そもそもそんなノウハウもなく、かつ資源としての体力がありません。
派遣会社の業務の本質は、簡単に言えば労働力のブローカー業務なのです。
決して教育産業ではありません。
僕は、派遣会社がこの事実を十分に自覚すべきだと思っています。
従って、歯の浮くような「スキルアップ」だとか「ブラッシュアップ」だとかきれいごとを言うのはやめた方がいいと思っています。
もし派遣法にあるように教育訓練の実施を厳しく派遣会社に課すようであれば、派遣会社がより利益がでるような法律にしていかないと厳しいと思います。
例えば、国がやっているような立派な職業訓練校をつくるような能力は派遣会社にはないのです。
派遣会社はどちらを目指すのでしょうか。
立派な設備が整った職業訓練校を民間で設立する方向なのか、ブローカー業に徹するのか。
僕なら迷いなくブローカー業に徹する方向を選びます。
もし現状の派遣会社が縛られている事務所の要件などがなければ、派遣会社はパソコン一台で可能だと思います。
営業マンもいらず、人選するコーディネーターもいらない、自分でサイトから選択して仕事を申し込み、企業がそれを受ける形ができれば十分に成り立つと考えます。
日本の労働法が絶対に守ろうとしている考えに、二重雇用の禁止、つまり雇用主が二人いる状況を嫌うというものがあります。
これは労働者からの中間搾取をさせないためですが、他国ではそうでない国もあると聞いたことがあります。
この2018年問題は、いろいろな意味で、派遣会社の今後の方向性を真剣に考えるチャンスかもしれないと思います。
おそらく必要なのは柔軟な思考力と発想ではないでしょうか。
参考記事:
「派遣切り」も…進まぬ正社員化 改正3年 雇い止め増える懸念
20181003 by okkochaan