少し前になりますが、知り合いで派遣社員として働いている方(Yさんとします)から現在の仕事でいじめにあっているという相談がありました。
私は30年近く派遣会社で営業として働いた経験があり、Yさんにも仕事をお願いしたこともあり、Yさんがとても真面目な職業人であることを知っています。
Yさんからも信頼していただけているので相談もあったと認識しています。
派遣社員がいじめにあうという実態は、これだけハラスメントが言われていても現状はむしろ悪くなっている気がしてなりません。
しかし、いかなる状況であれ、いじめの実態は陰湿で表に出にくい場合も多く、僕の基本的な反応は「そんな会社は辞めてしまえ!」となります。
いじめられた人がより弱い立場の人をいじめることは、本当に恥ずかしいことだと心底思っているからです。
いじめは何も生み出さないばかりか、いじめる側も不幸になり、いいことは一つもありません。いじめるという陰湿な喜びがあるという方もいらっしゃるかもしれませんが、僕はそんなことは信じません。
ここにあげたのは、ひとつの事例であり、それに対処する僕のアドバイスを書きました。
サイトをいろいろ見ると、目を覆いたくなるようなひどい例もたくさん見かけますが、残念ながら、その対処法も派遣会社などに相談してくれ以上のものではありません。
結局、この問題の本質をふまえた根本的な問題解決までは到達しそうもなく、いじめられた側も、「運が悪かった。派遣先を変えればまた変わる。」という根拠のない希望しか持てず、それでは、また同じことが繰り返されるし、事実、繰り返されているのが実態ではないでしょうか。
なので、僕にとっては、一般的な対処法も知っておいた方がいいとは思いますが、根治するための方法がより重要だと考えていて、個別の相談への対応を重視しているのです。
一つの事例から応用して考えるということが、根治への道だと思うし、一発解決は難しいけれども、最終的には回り道をしてもいじめられない人になり、いじめる側にもならないことになると信じています。
この相談を受けたときに、Yさんに記事として書いてもよいかと許可をお願いし、Yさんからは、「同じような悩みをもっている方も多いと思うので少しでもお役にたてば」ということで、事前にYさんに記事を読んでもらったうえで掲載させていただいています。
今、仕事でお悩みのかたとか、派遣社員の方が身近にいらっしゃる方に読んでいただけたら幸いです。
Yさんからの相談内容
Yさんは、40代の女性です。大学を出てから大手メーカー会社に正社員として勤務し、何年か働いたのちに、派遣社員として働いています。
明るく活発で真面目な性格の方で、私にとっては、性善説を信じたくなるような人であり、「世の中には悪い人もいるんだから気をつけてね」と失礼ながら言ってしまいそうなところもあります。
以下、Yさんからの相談内容です。
今の職場に入社当初20代男性社員から引継を受けましたが、とにかく口調がきつい方でした。
それは、あまり気にしないようにしていると、エスカレートしてきました。
パワハラまがいの口調や、態度には疑問あるものの、仕事の指摘事項には真摯に対処していると、ますます酷くなり、指示通りにやっていると、この処理をお願いしていたのに違う処理をしていると大声で指摘します。
そのため、周りには私が指示を守らない人物と見られてしまうことが多くなりました。
さらに、操作マニュアルがほとんどなく口頭での引き継ぎなので、言った言わないがとにかく多いのです。
私は、その頃から経験したことがない様々な体調不良が続きました。
さらに様々な紛失事件にも巻き込まれ、ことあるごとに男性は私の名前をだし、私が紛失事件に関係があるといわんばかりです。
派遣会社の営業の方から就業先の人事部長に概要を伝えていただき、人事部長はすぐに対応してくださいました。
営業の方は、人事部長から働きやすいようにフォローもお願いしますといわれたようです。
現場の他の社員の方と面談し、対応案として、引継担当者の交代がありました。
交代した担当者は男性の直の上司で40代女性でした。
しかも、二人は仲良しでもあるようで、男性の言動を横で聞いてて、容認していた人でした。
その女性から引き継ぎを受け、仕事を一度で覚えて処理をしても、なにかしら難癖つけてきます。
でも、皆がいるときは聞こえよくフォローしていることをアピールするという、したたかな面があります。
その女性上司は気にかけて育てたつもりの部下を、人事部長に難癖つけられたと憤慨しているのかもしれません。
私の覚えが悪いので、怒ったような態度をとってしまうかもしれないけれども、その何がわるいんだ、ぐらいにしか思っていないようです。
なにしろ気が強い人なのです。
Yさんへの返事
Yさん、大変な思いをされてますね。
以下は、僕が思ったことと対処法案になります。
まずYさんに確認をお願いしたいのは、こうした状況ではありますが、この仕事を継続したいお気持ちがあるかどうかです。
Yさんが何のために仕事をしているのかという根本的なところはこの際、しっかり確認したほうがいいと思います。
というのは、もしYさんの現状が別に仕事をしなくても経済的に問題ないのであれば、やめてしまえばいいと思うからです。
また同じような条件での仕事に就くのが難しく、何とか仕事を続けたいのであれば、苦痛を伴いますが、対処法を工夫するしかありません。
Yさんからいただいた文面から察すると営業に相談し人事部長まで話がいっているので、ここでは、何とかしたいと考えていることを前提に話を続けます。
しかし、やめるという選択肢はあるし、他に収入を得る方法を考えて、派遣をそれまでのつなぎにするとか、派遣を継続するにしても、収入は減っても、もっと軽い仕事で人間関係のストレスのない職場とか時短勤務や在宅勤務も可能で、ダブルワークも可能な職場を追求することは意味があることと考えます。
結婚もなさり、これから出産や子育てをすることを考えても、十分に意味があることではないでしょうか。
また、こうした視点をもつことは、現在、Yさんがおかれている状況を客観的に観ることを可能にするので、問題の男性社員(仮にA君とします)がなぜパワハラまがいの行動をするのかとか、A君の上司で現在の現場指示者である40代の女性(B子さんとします)の現在の言動も理解できるようになるからです。
まあ、理解する必要もないかもですが。
これから僕が現状について、こうではないかという推察をしてみますが、もちろん、それは間違いが含まれているかもしれません。
なので、話半分に聞いていただいても結構です。
僕は、Yさんが今現在、陰湿な職場でのイジメにあっていると思っています。
では、それはどうして起きているのでしょうか?
問題をYさんサイドとA君B子さんサイドから考えてみましょう。
A君の場合:
その部署は何らかの理由で一人あたりの仕事量が増していて派遣社員であるYさんにヘルプを頼んでいるのだと思います。
すると、A君の仕事も当然増加し、現在行っている業務のうち、ルーチン部分で派遣社員に任せたいと判断したものだけをYさんにお願いするという構想であったはずです。
ただYさんの文面からすると、僕には、人に任せることや教えることが下手ないつもイライラしている人物像しか浮かんできません。
さらに、派遣社員であるYさんと正規社員であるA君とがおのずと職責が違うということも理解していないようです。
もしA君が、もう少し物慣れていて経験もあれば、Yさんが良い仕事をしてくれるように教え方や接し方を考えた事でしょう。
しかしA君にはそんな余裕などありません。
唯一参考になるのはB子さんのスパルタ教育だけであり、人に対して(仕事に対してではなく)厳しく教育しなければならないと考えても不思議ではありません。
さらに職場独特の文化とかもあるのでしょう。
いずれにせよ、A君にもYさんにも不幸だったことは、仕事とはつらく厳しくミスが許されないものだという価値観が職場を支配していることではないかと思われます。
ちなみに、Yさんがマニュアルもないとおっしゃっていますが、現就業中の業界には実はほとんどの会社にマニュアルなどありません。
同じ業務をやるにしても、会社が違えばやり方が全く違うらしいです。
また、A君からみるとYさんが、素直にちゃんと仕事をしようとしているのが単純に気に食わないのかもしれませんね。
Yさんが、仕事をしっかりとしかも軽々とこなしてしまったりすると、自分は今まで何だったのかということになるし、仕事ができないのも、もちろん困る。
そうなると、現在のYさんのように、適度に自分の意に沿わない仕事ぶりをしてくれる人が、最も都合がよい人ということになるわけで、A君にとって、Yさんはその意味では理想的なスタッフだということになるのですが、A君は、その点は誤解していますね。
あるいは、誤解ではなく、すべて予定通りであり、意外と現状に満足しているのかもしれないのですが、まあ、その点は、しったこっちゃないですね。
それにしても、現場のポリシーに、厳しく鍛えるという文化がありそうな気がしてなりませんが。
「仕事の指摘事項には真摯に対処していると、ますます酷くなり、ここをやってください、その指示通りにやっていると、違う処理をしていると大声で指摘する。」
ここについてですが、これは男のヒステリーですよ。
僕はある都市銀行で、指示者の男性(40代ぐらいで普段は温和な印象)がスタッフに書類の山を文字通り投げてブチ切れているのを見たことがありますが、原因は本当にささいなことでした。
こうした方々は、たいがい外ずらはいいので、仕事をしてみないとわかりませんね。
まあA君については、自分を見失ってしまっているので、職場をはなれないと、治らない病かもしれないです。
まして人事部長に話がいってしまったのであれば、根に持たれるかもですね。
もうちょっと派遣会社がうまくやれなかったのかなという気もします。
B子さんの場合:
B子さんについては、ほぼYさんの考え通りだと思います。
今の就業先の業界では表裏をうまくつかいわけられなければ、生き残るのは難しい業界だと思います。
さて、対処するにはどうしたらいいでしょうか。
誤解をおそれずに言いますが、僕は、Yさんはもっとふてぶてしく生きた方が良いと思います。
真面目にやっていれば評価されるというのは残念ながら幻想でしかありません。
業界勤務経験があっても、会社が違えばやり方が全く違うというのは、さきほど述べた通りです。
Yさんは仕事ができなかったり、間違えたりするのは当然なのです。
まして今回は、できるとA君からより陰湿なイジメがあるかもしれない状況なのですよ。
急には難しいかもしれませんが、仕事はできないけど面白い人、気が利いて、いい人と思われるようにしてみたらいかがでしょうか。
派遣の場合、どうしても社員が上で派遣社員が下という理由のないプライドが暗黙のうちに存在する場合が多く、今回はそれもあると思っています。
まあ、上でも下でもどっちでもいいのですが、「私には全くそんなこと興味すらもてない」という顔をしているといいと思います。
様々な紛失事件ですが、僕にも同様の経験がありますが、一部はこれまでなかったからというだけの理由で派遣社員のせいにしたりすると、別な意味で大問題になることは、営業からそれこそ人事部長に言っておくといいかもしれません。
このあたりは、現場の方は理解できなくても、人事にたずさわっている方であれば事の重大性はわかるはずです。
だいぶ前に大手派遣会社で起こった、業界では有名な事件があるのですが、ある宝石店で宝石がなくなり、犯人がわからないのに、派遣社員を全員やめさせたことが大問題になったことがあります。
つまり疑わしいものはすべて排除するのはいいとしても、その疑わしい対象が派遣社員だけだったという点が問題なのです。
それと同じです。
Yさん、ここは非常に大事な点ですが、もっと図太く生きてください。
いまのYさんは、いじめにあいやすい子供と同じなんです。
A君から「指示した内容と違う処理をしている!」といわれたら、相手に目を合わせ、にこやかに笑いかけて、「すみませんでした。私はすぐ忘れるので、あっちだったと思ったんです。えへへ。」というぐらいの感じでちょうどいいと思います。
あと機会があれば、「私はお嬢様そだちで、親にも怒鳴られたことがなかったんです。でも、このごろは、おかげさまで心臓がバクバクしたりしなくなってきましたぁ。」とか言ってみましょう。
こんな感じで接しているといじめっ子はつまらなくなって去っていきますよ。
その後の経過
幸いなことにYさんは、僕の返事で気持ちが明るくなり、「気持ちが変わればこんなに周りも変わるんだ」と思うぐらいに変化しました。
しかし、その状態は長くは続きませんでした。
結局、Yさんはその会社を辞めることになりました。
もともと僕の返事は、いわば応急処置のようなものであり、病巣をつきとめて根治するほどのパワーはありませんでした。
Yさんがダメだったというのではなく、人間のもつ慣性の法則のようなもの、つまり、組織の考え方は容易に変わらないし、人間も変わらないという力のほうが上回っているからです。
もしこの程度のアドバイスで問題が解決したとすれば、そもそも問題なんてなかったに等しいし、職場はもとより、社会全体がすばらしい世界になるに決まっているからです。
ですが、現実にブラック企業はなくならないばかりか、むしろ悪化傾向すらあり、それは企業規模に関係なくあるように思います。
派遣社員で働くということは、良くも悪くも派遣社員にとって未知の文化やカラーがあるところに一人で入っていくことです。
それだけでも、相当な負荷がかかるはずですが、その上に、この記事のような対応をされたら仕事どころではなくなるのは明らかです。
にもかかわらず、このような事例は非常に多いのが実態なのです。
派遣社員のいじめの実態に、いったい誰が真剣に取り組んでくれるのかという問題もあります。
もっとも積極的なのは派遣会社であり、相談窓口もあったりしますが、しょせんは営利企業であり、派遣社員が働いてくれないと1円にもならないことをよく知っているからこその対応です。
結局は、他人事であり、下手をすると派遣社員一人が悪者であり使えないとかトラブルメーカーだとかのレッテルを貼られてしまうのです。
僕は、たまたま初めの派遣先に問題があったり、あまりにも相性(カラー)が違い過ぎて就業継続が困難と感じてすぐにやめてしまったために、その派遣会社から仕事を貰えなくなった方を非常にたくさん知っています。
なぜかというと、そうした派遣社員の方を僕は採用して派遣していたからです。
派遣会社は忙しく、言葉は悪いですが、いちいち個々の問題にかかわってはいられないという面もあるという実態を派遣社員も知っておいた方が良いかもしれません。
悪いのは、派遣会社でも営業でも派遣社員でもない、そして派遣先の社員でもないとすれば、いったい何が悪いのか、何が心を貧困にしているのか、僕はしばしば考えてしまいます。
PS
派遣関係での相談があれば、いつでもご連絡ください。連絡はこのサイトの連絡先でも構いませんし、コメント欄からでも結構です。
なお、派遣先企業の方、派遣社員の方、派遣会社の営業の方、すべてが対象です。
お読みいただき、ありがとうございました。
20210620 by okkochaan