人材派遣 顔合わせ
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派遣で働いたり、営業をやったことがある方はわかると思いますが、人材派遣では顔合わせなどと称して、実態は面接だったりすることが多々あります。

 

日本の社会では、法律がはっきりと禁じているのに、実際には守られていないのです。

 

ちなみに、「人材派遣 顔合わせ」というキーワードで検索してみると、派遣の面接は禁止されているといいながらも、顔合わせに何を聞かれるかとか受け答えの方法についてのアドバイスとか、どこからみても面接対策を目的とした記事が目立ちます。

 

こうした矛盾をダブルスタンダードといいますが、私はこの状態を放置することが気持ち悪いというか、釈然としないモヤモヤ感をずっと持ちながら仕事をしてきました。

 

では、人材派遣の面接は違法であるのに、なくならないのはなぜでしょうか。

 

ここでは、どうして違法である派遣の面接がなくならないのか、どうすれば、こうした馬鹿馬鹿しく無駄な「顔合わせ」をやめることができるだろうかということについて考えてみたいと思います。

 

派遣の顔合わせは責任のなすりあいである

私は人材派遣における顔合わせとか事前打ち合わせとか業務確認とかは、責任のがれをし、責任のなすりあいをするための行為であり、こうした派遣先と派遣元とのもたれあいが、顔合わせがなくならない理由と考えています。

 

責任は派遣先と派遣元(つまり派遣会社)の双方にあります。

 

もちろん、スタッフの責任として、スキルや経験などについて嘘をついている場合もありますが、その場合は、派遣会社のスタッフ登録手続き上の問題であったり人選での甘さが原因であるので、派遣会社の問題となります。

 

スキルについては、求めるものが多岐にわたるようになり複雑化しているという事情はあります。

 

セクレタリー(秘書)の仕事も、もともとは、男性のタイピストから発しており、スキル的にはタイプスピードと正確さという計測しやすいものだけだったために、求められるスキルが大きくぶれることはありませんでした。

 

しかしその後、セクレタリーという職業が重要なポジションを占めるようになると、タイプ力だけでなく語学力とかファイリング能力とか、業界経験とか、個人付きの場合は、つく人のプライベートな領域のサポートまでこなすようになってきました。

 

そうなると、派遣先としては、以前派遣してもらった同じ人が空いていれば来て欲しいと考えるのは自然な人情ですが、現在の派遣法では、これすら派遣先によるスタッフの特定行為とみなされ違法となっています。

 

その結果、誰を派遣するか、または、どのような人を受け入れるかは重要な問題となり、誰がどのように選ぶかとなった時に、面接とか選考とかが入りやすくなります。

 

しかしながら、現実に起きていることを考えると、私はスタッフの顔合わせは責任のなすりあいであると思います。

 

人材派遣の顔合わせで、どのような違法性が生じ、責任のなすりあいをしているのか、もう少し詳しくみてみましょう。

 

派遣先が始めから当然面接すべきだと考えている場合はここでは省きます。そうした企業は多いですが、法に触れることをするよりも企業論理のほうが優先されているからで、罰則を強化するなどするしかないからです。

 

また企業がどうしても面接をしたいのであれば、人材派遣という制度をつかわず、自社で募集するか紹介予定派遣を利用する方法もあります。

 

しかしこの都合の良い紹介予定派遣という面接を合法化した苦肉の策には、問題もあり、それについては以下で書いています。

 

紹介予定派遣のデメリットと紹介予定派遣以外のオススメ

 

実際の顔合わせの流れですが、派遣先は、スタッフに対し仕事内容の説明をしつつ、それに関連した経験とかスキルの確認をしますが、この作業は本来、派遣会社が仕事紹介時にスタッフに対してなされるべきものであり、派遣先がする必要はそもそもありません。

 

また派遣会社では派遣の紹介であるのに、初めから面接ととらえていて、冒頭で、派遣会社の営業がスタッフを紹介したり、スタッフが自己紹介したりする形がマニュアル化されている場合もあるほどです。

 

しかし改めて、なぜ派遣先は面接をしたがるのでしょうか?

 

それははっきり言うと、派遣会社を信用していないからなのです。

 

派遣先は派遣依頼をするときに、求めるスタッフの要件と仕事内容を疑問の余地のないぐらい詳しく説明し、文書化とか動画化していれば、派遣会社はその内容を完全に理解し、スタッフに説明すればよいだけです。

 

しかし、派遣先企業の派遣会社に対する不信は、仮にそうした詳細な説明があったとしても、派遣会社が理解できないだろうと考えているところにも現れています。

 

実際には、企業は選考をするつもりなので、派遣依頼時の情報は、社員やアルバイトの募集要項となんら変わらない場合がほとんどです。

 

派遣会社は、くわしい業務内容を顔合わせで初めて知ったりするので、その意味でも人選をいそいで早く顔合わせをしたがります。

 

なお、日本の現状と対比するために、少しアメリカの状況に触れておきます。

 

アメリカでは人種差別の問題になるので、そもそも性別や年齢などを特定することはできません。

 

当然、派遣先での選考などはなく、スタッフは派遣会社の仕事内容の説明とかホームページ上での詳細なJob Descriptionを読んで仕事に臨みます。

 

これは野球で代打を指名される状態に近く、派遣スタッフは良い仕事をしないと次の仕事がこないので真面目に取り組みます。

 

一方で、30代までの女性とか限定し、なおかつ面接をする日本の企業とつるんだ違法性の高い派遣とどちらが良いでしょうか?

 

ちなみに日本に似た韓国での人材派遣の場合は、法的に面接がどうなのかは詳しくありませんが、ある韓国の派遣会社の社長に聞いたところ、「韓国ではクライアントは王様であり、絶対だ」という返事が返ってきました。

 

すなわち、22歳までの美人を派遣してくれとなれば、納得がいくまで面接をするそうです。

 

日本では、企業の面接を派遣法で禁じながら実態ではそれを見ぬふりをしているために、現実にはスキルや経験、能力もありながら仕事に就けない人たちもたくさんいます。

 

日本の派遣業界では、25歳から35歳未満ぐらいの女性がメインのターゲットであるという笑うべき状態となってしまっているわけですが、これも面接を許しているからにほかなりません。

 

派遣会社が記録する依頼内容にも企業の希望として年齢とか性別を記入する項目が必ずあるのです。

 

またスキル・経験については、派遣会社側にはどのような人を派遣すればよいのか本当のところはわからないし、派遣先にすれば、派遣会社がだしてきたデータを信用しないという関係となります。

 

その状況で、派遣法を守って、派遣会社のスタッフを無条件に受け入れるなどとうていできないというのが派遣先の本音でしょう。

 

こうして、一見、万全を期して最良の選択をしたと思っても、スタッフの能力が期待より大きく下回った場合のクレイムとか、派遣スタッフが突然やめてしまったというトラブルなど、派遣業に多いトラブルで派遣会社の営業は板挟みになり鬱になったり、逆に自分はこうしたストレスにも耐える営業だと力んでみたりという滑稽な状況が生まれるのです。

 

もちろん、その場合、派遣会社としては、派遣先が選考したという事実があれば、かなりの部分の責任を逃れることができるので、ここで派遣会社の営業は悩んだりする必要はありません。

 

私は、派遣の営業をなさっている方から時々相談を受けるのですが、こうした企業からのクレイムについては、問題が多々あるので、あなたが悩んであげる必要など全くないと答えています。

 

派遣先も同様の理由で、まあうちの仕事を理解するのは難しいからねとか言って、少し自己満足をし、派遣会社の営業には「次はちゃんとした人を頼むよ」と笑いながら言い、営業も「はい、わかりました。がんばります。」と、何を頑張るのかわからないままに仕事に追われる日々を続けます。

 

私は責任のなすりあいと言いましたが、それは双方が悪いのはそっちだと喧嘩をするのではなく、むしろ共犯関係にあるかのような無意識の合意がそこにあるとみています。

 

「共犯関係」というと言葉がわるいですが、相互に違法行為をしていることは事実であるし、それに派遣会社が異議をとなえなければ、黙認していることになるので、やはり共犯関係です。

 

こうして、派遣がうまくいかなかった時には、スタッフに全く落ち度がなくても、悪いのはスタッフだけということになり、派遣会社にとっては、スタッフという原資を失うことになります。

 

そのスタッフも仕事をしなければなりませんから、ライバル派遣会社に流れるので、派遣会社にとってはダブルの損失になるし、また募集すれば良いという安易な考えのために広告費だけ膨らんでいきます。

 

私は実際に、ある派遣会社がNGとして仕事の紹介をしなくなったスタッフが登録にきて派遣したことがたくさんあります。

 

自画自賛になりますが、特に、そのスタッフが前に所属していた派遣会社の重要クライアントに派遣することを決めたことが何度もあり、その時は痛快な気持ちをもったと同時に派遣というシステムのいいかげんさを感じざるを得ませんでした。

 

この現象は狭い業界、限られたエリアとかでは非常にくっきりと表れるので、派遣会社が真剣に取り組むべきテーマだと思います。

 

失敗した派遣のロスをよく考えるべき

これまでの説明で、企業にとって一つのプロジェクトには違いない、派遣スタッフの採用をめぐって、いかに大きなロスがあるかご理解いただけたでしょうか。

 

企業は、たった一人の派遣スタッフを採るためにA社、B社、C社と3社の派遣会社に同じ依頼を出し、それぞれの会社が紹介したスタッフと顔合わせの日時を指定し、最低でも30分の時間を費やしています。

 

派遣会社としては、なんといっても人選に多くの時間を割くだろうし、場合によっては広告費をかけたりします。

 

そして、顔合わせの立ち合いのためにスタッフと企業に同行し、スタッフから断られたり、もっと悪い場合は、いったん引き受けてもらったのに断られたり、もっともっと悪い場合には、契約書を作成して郵送とか派遣初日に待ち合わせ同行するつもりが、スタッフが待てどくらせど現れずその足で企業に謝りにいったりしているのです。

 

ついでにもっともっともっと悪い場合は、派遣して3日もしないうちにスタッフが勝手にやめてしまったりして、それでも給与は払わざるを得ないのに企業には請求できないとかなったります。

 

こうした派遣で生じるトラブルを派遣会社はスタッフの責任にして幕引きをすることが多いです。

 

もちろんスタッフが悪い場合もあるとは思いますが、私は、この種のトラブルのほとんどの原因は人選にあると考えています。

 

人選の問題もいくつかあるのですが、仕事についてスタッフが十分に理解していなかった場合を考えてみます。

 

つまり、スタッフが思っていた仕事内容と違う場合です。

 

結果として、スタッフが突然やめたりとか社会人としての最低のマナー欠如はあるにせよ、事前にしっかりとした派遣会社の説明とスタッフのそれに対する理解があり、選考の重要なプロセスとなっているならば、防げる場合も多いと思います。

 

しかし、現実に営業と人選が分業化されている場合も多く、派遣会社内での情報伝達にも大きな問題があるなかで、営業は数をこなさなければならず、人選担当者も同じく人選精度よりは人数を求められれば、こうしたトラブルの温床は悪化していくばかりです。

 

実際、わけもわからずダメ元で企業に紹介してみたりしているのが普通ではないでしょうか。

 

こうした粗雑な状態であれば、優秀なスタッフであってもたまたま運悪く望まない仕事を説明もあまりないなかで受けてしまい、どうしても希望と違うので、早期にやめた方が良いと考えてやめても、派遣会社からは無責任に3日で契約途中でやめたスタッフという記録が残り、仕事が紹介されなくなっても不思議ではありません。

 

ただ私の記述で重大な誤解を与える可能性があるので、ここは重要ですが、大事なことは、悪いケースも想定しつつスタッフの理解を得る点なのです。

 

決して、詳細な仕事内容を話すこととイコールではありません。

 

詳細な仕事内容を求めるのは、仕事というものが必然的に含んでしまう変化とか流動性を全くみとめないことと同じです。

 

例えば仕事紹介の際に、指揮命令者は30代なかばの女性と言われても、会社というのは人事異動がありますから、仕事に行ってみたら50代の男性であったりするかもしれません。

 

また派遣当初は30代の女性でも1カ月もしないうちに50代の男性に変わるかもしれません。

 

もし仕事や環境説明にそこまで詳細が必要であるとするならば、派遣スタッフはその変化のたびに辞めることになります。

 

これほど仕事をおちょくった話もないと思うのですが、現実の派遣スタッフがやめる一番多い理由は人間関係です。

 

これを防ぐために、派遣会社はスタッフに対し、「あなたが仕事を続けられないと考えるのはどのような場合ですか?」という質問を必ずすべきです。

 

この質問は、登録時に職歴についてヒアリングをする際に、退職理由として聞いていると思いますが、さらに深掘りして、どのような状況になるとやめるのかについて、派遣会社はよく見極めておくべきです。

 

これは、そこにこそ派遣会社の信頼できるスキルがあると企業から指摘されても仕方がない点だと思います。

 

多くの場合、事務的に登録が進んだり、オンライン登録でろくにヒアリングもしていなかったりするので、人選する人も営業担当者も根掘り葉掘り聞いてスタッフに断れると嫌だとか思わず、しっかりとやるべき重要なポイントです。

 

そして気になる点があれば派遣先に事前に確認をしておき、スタッフにも説明しておくべきでしょう。

 

正社員の場合も同じく人間関係の問題で退職する場合は多いですが、まして短期で働く派遣社員なら嫌な人と一緒に仕事をつづける必要性など皆無であり、やめるハードルは限りなく低いのです。

 

仕事内容の規定はできるだけ正確にすべきですし、問題があった場合の調整も容易ですが、人間関係については、通常、仕事詳細に入る項目ではありません。

 

ですが、人間関係は意識的も無意識的にも、人間の行動の多くを規定する場合が多いということは徹底して認識しておくべきことです。

 

派遣先が同じ業界で働いた経験があるスタッフを望む場合が多いのもまさにここにあり、業界特有の空気を理解しているかどうかは、スタッフが会社になじんでくれるための重要なファクターなのです。

 

さて、人選ミスを原因として、結果的にスタッフがやめてしまった場合ですが、派遣会社は大事な資産を一人失ったわけです。

 

もちろん、気にも留めず前進あるのみと大本営よろしく頑張ることになりますが、残念ながらプロセスのどこに間違いがあったのかという反省がないので、何度も同じ間違いを繰り返し、あげくのはてに派遣先企業とか現場の担当者のせいにしたりします。

 

結果、おびただしい時間とスタッフを失い続けており、このロスは深刻だと私は思います。

 

そして、私はこうしたトラブルを回避するためにも、人材派遣の顔合わせを廃止し、派遣法通りに派遣元がスタッフを選出するべきだと考えています。

 

派遣会社は派遣が失敗した場合の逃げ道を失うのでその分きつくはなりますが、企業や人をより理解するという能力を伸ばすことができ、責任をもった仕事をするようになるはずです。

 

派遣先は、面接をする必要がなくなる分、本業に集中できるわけだし、そもそも派遣を利用する目的が、本業に集中するためであり面接で時間を割くのは本末転倒だという当たり前の事実を知ることになります。

 

また派遣会社は派遣先のスタッフ受け入れに不安があれば、派遣活用コンサルタントとして派遣先の不安を払拭しておき、不要なことと必要なことを明確にしておくとよいでしょう。

 

ここから、派生して、

・ 面接も失敗もない効率的な人材派遣

・ SNSを利用したコロナ自粛での人材派遣の運用法

・ まだ派遣の面接なんかやっているの?

などのテーマが浮かびました。

 

ちょっと長くなってしまったので、この記事はここでやめて、別に書こうと思います。

 

参考資料

特定目的行為の禁止について(厚生労働省)

 

 

20110213 by okkochaan